この1年の間に参加したいくつかのイベントでは、サンフランシスコのVCが大学生に大学を辞めて起業することを強く勧めていた。それぞれのイベントでその主張を裏付けるべく(ビル・)ゲイツやザッカーバーグの話をしていた。
このアドバイスは人々をやや間違った方向に導くもので、極めて利己的であるように思える。VCビジネスには絶え間なく続く新たなアイデアと会社の存在が求められる。VCは90%失敗するだろうことが判っていながらも最も有望な5%に投資する。ひとしきりの経験後に若い創始者たちは疲弊し、最終的には大学の学位もない無一文の状態になってしまう。
宝くじに当たる確率のほうが、起業のアイデアが次のフェイスブックやマイクロソフトになれる確立よりも有意に高いのだ。
しかし、全く起こりそうもないことは承知の上で、もし大学生が巨額の富をもたらすアイデアの上に自分が座っているのだと情熱を持って信じられるのであれば、退学してそれを突き詰めることにも頷ける。但し、アイデアと情熱が先にありき、だ。退学してサンフランシスコに移住し、その後に何がしたいかを探るようでは災いのもとにすぎない。
日本と欧米では、何が失敗の構成要素なのかについての考え方が大きく異なる。
2001年にヴァンガード社をデジタルガレージ社に売却した際、私の欧米の友人たちはこう言った。「売却の記事、読んだよ。おめでとう!長い間頑張ってやってきたもんなぁ。さぁ飲みに行こう、一杯おごるよ!」
しかし、日本の友人たちは一様にこう言った。「売却の記事、読んだよ。手放すことになって残念だね。長い間頑張ってやってきたのにね。一杯おごらせてよ。」
その月、どれだけビールを飲まされたことか。